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読んだり、書いたりの日々
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古本屋に入ったときに
私は大人になった気がした。

古本を手に入れたときには気がつかなかったけれど
本の間に栞のように写真が挟まっていることがある

あ!と息をのむ瞬間。

なんだか、見てはいけないものを見てしまったような
そんな不思議な気持ちになる

あ!と思うのだけれど
写真をじっと見つめてしまう

だいたいの場合において風景写真が多いのは何故だろう?

捨てるには忍びないけれど
アルバムに貼るほどでもない
そんなところかもしれないけれど。

捨てるには忍びないけれど
いつもそばに置いておくようなものではない

なんだ、それって私じゃない。
そうつぶやいたら可笑しくなってきたから笑ってみた
笑ってみたけれど、笑うにはふさわしくないことだと気がついた

笑うにふさわしくないことでも笑ってしまいがちな
そんな自分に呆れながら冷蔵庫を開けてヨーグルトを掴みだす
ペリっとふたを開けてふたに付着したヨーグルトを舐めとる
ちょっと、彼のことなど思い出して舐めてみようかしら?
でも、ヨーグルトと一緒にしてはまずいな、と呟いてみたら
今度は本当に可笑しくなったので笑った。

いつものようにヨーグルトの中に一掴みのシリアルを放り込んで
スプーンでぐるっとかきまぜ口にいれる
おいしい。一人でもちゃんとおいしいと言うことにしている
いただきますも、ごちそうさまも、ちゃんと言うと決めている
独りで暮らし始めたばかりの頃、うっかり1日中黙っていたら
電話がかかってきたときに声が出なかったという経験がある
それ以来、最低限のあいさつや感想を言うなんてことをしている

その甲斐あった。

携帯が鳴る、こんな時間に?誰だろう?

あぁ、可愛いN君からだった
男の子なのに、なんでこんなに可愛らしい声を出すんだろう?
N君と話しているといつもそう思う
そんなことを考えているから、ぼぅっとなってしまう
「聞いてる?」N君の声で我に返ることがしばしばあるから
私は、彼の中でいつもぼうっとした人ということになっているんだろうな

人間関係でとてもとても苦しんでいる彼は
私の孤独な一面をとても良いと言ってくれた
彼を見ていると、本当に好きな人とだけ生きるということが
本当の人間らしい生き方ではないかと思えてくる

それなのに、私ときたら、生活のために嫌な時も笑えてしまう
嫌な奴にも従うことができる、いとも簡単に

なにが、富なのか?寝る前に考えるのが此処のところの楽しみだ
古い本の間にあるような捨てるには忍びない写真だって
誰かにとってはとんでもなく価値のある場所を写しているのかもしれない

私は、そんなことを考えながら
ちょっとN君のことを思い出している
私たちは、これからどんな風になっていくのだろう
恋に落ちるのだろうか?親友になっていくのだろうか?
普通の友だちのままなのだろうか?

どちらにしろ、繋がっていくことに違いはない
人は人と否応なしに繋がっているのだから
不必要でも、忍びなくても、惰性でも、同情でも
一度でも触れ合えば、その繋がりは消えはしないのだから

新しい恋など、このようにして始まるのだなと思いながら
もう1度歯磨きをして眠ることにした。

明日は雨かしら?そんなこと思いながら
ヨーグルトと彼の味わいを思い出し比べながら
伝統のように繰り返される人間の愛を考えながら
罪が善である場合を想いながら

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右足が扁平足らしい

そんな風に指摘されると
さらに扁平が増してゆく気がする

足裏を見やる

なるほど、たしかに
左足に比べるとアーチがボンヤリしている

慌ててタオルを足指で
キュッキュッとたくし寄せたりしてみる

「無理すんなよ」
左足裏が呟いた

右足裏は、土踏まずをキュッと上げて
「大丈夫よ、わたしは大丈夫」と言い
さらに、タオルをキュッとたくしてみせる

右足裏のいじらしさに
わたしはキューンとなる

私も、この右足裏のような
いじらしさが備わっていたならば

今ごろは、と思ったところで
ハッと我に帰り

また、足裏を見やる

ふんふん、さっきに比べたら
間違いなく土踏まずがキュッとなってきた

なんとも言えぬ達成感であるけれど
さっきから、左足裏が
やけに淋しそうなので
右足裏と左足裏をくっつけてみたら
小さな土踏まずが
キュッキュッと音をたてながら
わいてきた、虫がわくように、わいてきた

小さな土踏まずらは
私の周りをクルクルと
狂ったように回っていたけれど
あんまり五月蠅いから
クルクル回ってる
数個の土踏まずを蹴飛ばしたら
キャーキャー言いながら消えていった

扁平足の蟲たちが懐かしくなって
扁平蟲と呼んでみた
ベランダやトイレの中も呼んでみた

扁平蟲は、何度呼んでも帰って来なかった。

だから、私の右足裏はね
明日も、明後日も、扁平足のまま

あぁ、午前2時あたりの匂いが立ち込める
午前2時に包まれて眠ろう

そして、まだ
左足裏と右足裏は、繋がっていたし
扁平蟲の生まれる声も
足下で聞こえていたから
少しワクワクして眠った
 

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私は、独りになった。

孤独。に飢えていたのだった。

見て見ぬふりで、やり過ごした
この途方もない飢えをしのぐように
孤独を飲み込んだ。

次から次へと、飲めるだけ飲んだ。
場所を変え、姿勢を変え
朝となく、夜となく
出来うる限り大きな口で
ゴクゴクと喉を鳴らしながら
大量の孤独を飲み続けた。

もう、これ以上は飲めない。
そう思うのに5年かかった。

ある日、孤独と一緒に原宿に行った。
駅の中で、それは美しい女性のポスターを見た。

吉永小百合さん。と、孤独が言った。

そうだ、吉永小百合さんだ。
とても美しいね、小百合さん。言いながら孤独を見やると、いつの間にか、いつの間にだろうか、孤独はポスターのすぐそばに立っていた。
そうして、私に手招きした。おいでおいでと。

此処に行こうか?と、孤独が誘ってくれた。

この5年あまりで、孤独のほうから
何処かへ行こうと誘ってくれたことは
後にも先にも無かったので
私は、ひどく興奮してしまい
行く、行く、行きます。と言って
高らかに右手を挙げたあと、子どもじみた自分の反応に生命の躍動を感じた。

私達が向かった先は信州だった。
あさまという新幹線に孤独と2人で乗り込んだ。
ホームのキヨスクで、孤独は蜜柑を買いこみ
いくつかの蜜柑の中から1番美味しそうなひとつを取り出すと、自分のポケットにしまいこんだ。
あさまが、ホームに入る頃
残りの蜜柑は、私の手の中にあった。
小粒だけど、
皮がパンとしていて美味しそうな蜜柑
孤独は、列車に乗ったことがなかったのか
どうしても、窓際に座りたいというので
どうせ、私は、すぐ眠ってしまうのだから
快く窓際を譲って、さっそく蜜柑を口に入れた。

孤独は、この5年間、いついかなる時も律儀であったが、列車の中でも、やはり律儀であった。

孤独は、律儀な上に、この5年間.いついかなる時も陰日向なく孤独なのであったから
君は、驚くほど律儀だ。と言ってみたら
孤独は、窓の外を眺めたまま呟くように話し出した。

私は、孤独として、孤独を守ることに、なるたけ私利私欲を挟まず真心を持って尽くしています。

そういえば、この5年間、私は孤独から、いろんなことを教わった。
暗い闇の中で、焼けたアスファルトの上で、冷たいコンクリートの部屋で、愛する者に裏切られているような時でも、孤独は律儀であった。

誠実であるということは
きっと、そのようなことだろうね
そう言いながら、重くなったまぶたを開けていられなくなり、孤独の肩に頭をのっけて、私は少し眠ることにした。

しばらくして、蜜柑の皮の苦いような匂いが
ぷんと鼻先に香ったので
うっすらと目を開いてみたら
孤独が目の前に蜜柑を差し出して
もうすぐ着くよ。と笑った。

孤独の肩に頭を乗せたまま
半分こにされた蜜柑を受け取り口に入れた
ちょうどいい甘さが喉を潤してくれた。
ゴクリと喉を鳴らして最後の一房を食べ終えたら
いまのが、最後の孤独だよ。と呟いた。

わかっていたのだ
私には、わかっていた。
この旅が孤独との最後の旅になるということも
吉永小百合さんのポスターを見た時から
私には、わかっていたのだ。
孤独が誠実で律儀であるということも
もう、私には孤独が必要ないということも
すーっと涙がこぼれてしまった。

それは、ただの、執着だね。
孤独が見透かしたように言い放った。

いつのまに、私はこんなにも
孤独に執着してしまったのだろうか

それでも、孤独の肩から頭を離すことはできなくて
トントントンと少し揺れるような列車の振動に
何にも聞こえなかったふりして目を閉じる。

しばらくして
列車は終点に私たちを運び
孤独は、聞いたこともないような大きな声で
私の手をとって言いました。

回復しました。

そうして、跡形もなく消えていったので
とにかく、そばを食べようかなと
改札を出て歩き出した。
回復しました。と呟きながら
吉永小百合さんのポスターの前を通過。
 

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